日本の伝統芸能である能を学ぶことによって、ポーランド人と日本人の間に豊かな心の交流をもたらし文化理解の架け橋をかけること、またより高いレベルでの日本文化研究の場を設けることを目指して、ポーランドの能グループ「緑蘭会(りょくらんかい)」は立ち上がり、今日もなお活発な活動を続けています。
緑蘭会発足のきっかけは、1999年以降幾度にもわたってポーランドを訪れ、能のワークショップを指導されてきた能楽師 松井彬の活動でした。このワークショップに触発され、能のことをもっと知りたい、勉強したいと思う向上心溢れる仲間が集まり、それまで単発的に行われていた能ワークショップを、長期的・定期的な活動にしていくため、2009年に正式に緑蘭会が立ち上げられました。
主な活動は、年に二回能の実技のワークショップを開催すること、ワークショップ後も継続して週一度の稽古の場を設け、技術を維持すること、また能楽師の先生をお招きして、ワルシャワ大学、ポーランド日本情報工科大学、日本国大使館広報文化センター等において能楽講義を共催すること等です。この活動を長期にわたって継続運営していくため、2010年1月27日には「緑蘭会基金」(Fundacja Ryokurankai)が設立されました。
能のワークショップに参加する人々に聞いてみると、実に様々な動機があることが分かります。ある方は、以前ポーランドで行われた喜多流、観世流の能の公演を見て、それまで見たこともない独特な美しい舞台に驚愕し、自らも学んでみたくなったという役者志望の若者。ある方は、在日本ポーランド大使を務められているヤドヴィガ・ロドヴィチ大使がポーランド語に翻訳された謡曲のアンソロジー本(Aktor doskonały. Traktaty Zeamiego o sztuce nō, Boski dwumian. Przenikanie się rzeczywistości w teatrze nō)を読んで、その詩の美しさに魅せられ、謡曲に興味を持ったという若い女性。また、2011年2月にテアトル・ステュディオで演能された銕仙会による新作能「調律師——ショパンの能」(ヤドヴィガ・ロドヴィチ大使原作)に感銘を受けた観客の方。ある方は、日本の文化がとにかく大好きだけれど、ポップなものだけではなく伝統的なものも学んでみたいという中学生の少女。ある方は身体表現一般に興味があり、能の動きを学ぶ事で自らの身体表現の幅を広げたいと考えているダンサー。ある方は、長い間ポーランドに住んでいて日本文化を懐かしみ、伝統的な歌を学びたいと思い参加した初老の日本人男性。
このように、参加者それぞれが能のワークショップを通じて、自らの人生の糧になるような、能の表現のエッセンス、伝統芸能の深み、美しさを学び取り、各々の文化生活と日本文化理解を更に豊かにしているのです。
中欧をはじめ各国から、ポーランドでの能ワークショップの参加者を募集いたします。
ご希望の方は緑蘭会(ryokurankai@gmail.com)までご連絡ください。
>>緑蘭会の活動報告
1998年の茂山千五郎家によるプラハにおける狂言公演がきっかけとなり、2000年に大蔵流狂言師・茂山七五三氏による狂言ワークショップがプラハ、ブルノにて開始されました。以来、継続して実施している本ワークショップは大きな反響を呼び、茂山七五三氏の指導の下、チェコ人による狂言『柿山伏』『口真似』『附子』『清水』『棒縛』『柑子』等が完成し、現地でおよそ400 回の公演回数を数えるまでに成長しました。これらの活動の次なるステップとして、本年度も狂言ワークショップを開催、日本で1953年より「新作狂言 『濯川』」として上演されている一曲をチェコ語に翻訳し、大蔵流狂言師・茂山宗彦氏より直接稽古を受け、『濯川』をチェコ語で完成させました。
また、日本国内では、アメリカからの来日中の修学旅行生(高校生)のための狂言の演技・観劇体験プログラムや外国人の狂言の実演者及び愛好者による狂言の稽古及び各地での公演活動を実施。狂言の魅力を海外に幅広く伝えるため、各プログラムでは、演技だけでなく狂言の歴史や台本、翻訳、装束の扱い方、舞台準備等、狂言の総合的な知識を深める機会を提供しました。
2000年に欧州文化首都がプラハ(チェコ)で開催されたことが契機となり、チェコではヨーロッパ以外の芸術文化活動への関心が高まりました。当時、当委員会の委員であったカレル・ジェブラコフスキー駐日チェコ前大使による日本の芸術文化についての熱心な取り組みもあり、チェコ・日本間の芸術文化交流事業への支援体制が強化されました。そのひとつとして、狂言の茂山七五三氏によるチェコにおける狂言ワークショップの成果により、チェコで狂言を学ぶ人々が増え、チェコ人の狂言役者団体「ナゴミ狂言会チェコ」が創立、10年以上にわたり活動を続けています。中心となって活動しているヒーブル・オンジェイ氏は京都の茂山家にて狂言の研修を受けながら、チェコにおける狂言のさらなる普及と、日本におけるチェコ人狂言師の研修と活動の場を増やすために尽力しています。
>>なごみ狂言会チェコの活動報告